落穂ナム
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寝床へ向かう道中、ゆらりゆらりと歩く痩せぎすの男の背が見えた。顔の片方を面で覆っているあたり、傷跡でもあるのか。蹌踉とした足取りではあるがサーヴァントの身、大事には至らぬであろうとそのまま追い抜けば、
「おおクリスティーヌ……何故……」
と呪詛めいた嘆きの声が地を這うように聞こえてくる。何故。その問いかけが苦味を持って但馬の胸に響いた。何故主は自分を受け入れたのか。何故自分は斯様な所業に至ったのか。考えても仕方のないことでありそれによりうことるものは大きく甘受しているが、果たしてこれが正しいことであったのか。未だにわからない。
「何故」
口に出して呟いたのはいっときの迷いのようなものであったのだろう。
「お前がそれを問うのか」
幽鬼のように、先ほど抜かした男が静かな殺気をもって後ろに立つものだから危うく切り掛かりかけた。しかし共用部での喧嘩はご法度であるからして、手を大きく振り出すと男の鼻元に直撃する。振り返りざま勢いをつけた結果うっかり手が当たってしまったのだと弁明するしかない。それで納得されるかはわからぬが。うずくまる男に、今医者を呼ぶ、と言い置いて、救護室へ向かった。

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ichinyo.site/但馬守に斬られたい人たち

「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス