落穂ナム
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「風呂空いたぞ」
「はあい」
風呂上がりでまだ湯気の立っている柳生が声をかけると、立香は生返事をした。ソファに寝そべって何やら本に熱中しているようで、見向きもしない。
「夜更かしか?」
「んー」
一応聞こえてはいるようだが動くそぶりはなかった。しばし考えたあと、柳生はキッチンに向かい冷蔵庫の中身を確認する。卵と牛乳があるからなんとかなるだろう、と結論づけてついでに水を一杯飲み干すと、再びリビングを覗いた。相変わらずの格好で読書に勤しんでいる立香の背を、ソファー越しにするりと撫でる。びくっと身体を跳ねさせた立香が驚いた顔で振り返った。
「朝飯は俺でもつくれそうだから好きなだけ読むといい」
たまにはこういう妻へのサービスがあってもいい。そう思って柳生は申し出たのだが、
「……拗ねてるの?」
妙に嬉しそうな妻がゆっくり起き上がると頭を抱きかかえてくる。
「いや」
どうも伝わっていないらしい様子に苦笑しつつも抱擁を返す。
「風呂に入れ」
「……ん」
立香は甘い返事とともにひとつキスを落として浴室へと向かっていく。残された柳生は、なんにしろ明日の朝食は自分で作ろうと定めて寝室に消えた。

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「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス