落穂ナム
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時々、彼女は泊まって帰るようになった。肌を合わせる時もただ同じ布団に転がるだけの時も、誰かがいる幸せと眠る。この年で味わう贅沢ではないが、そんなことよりも気にかけることは沢山あるからよしとした。
彼女は寝巻きの類は長らく持ち込まずいつも俺のTシャツを着ていた。丈が合わないのが逆にちょうど良く、少し柔らかくくたびれた生地の風合いも好きなのだ、と。その気持ちは分からなくもなかったから、多少の刺激はあったものの目を瞑る。見慣れたシャツに包まって眠る彼女は平和そのものだった。
とはいえ、やはり襟ぐりが寒い季節になってきて間に合わなくなったらしい。柔らかい、うんと上等のタオル地のようなパーカーを置かせてくれないか、と頼まれたのは秋の終わりの頃だったと思う。淡い色のストライプがよく似合っていて生地の触り心地もよく、なるほどこれなら彼女の目に叶うだろう。
すごくいいな、と褒めた次の週、俺にも同じようなカーディガンを買ってきたという。色は違うから安心しろ、と何故か少しバツが悪そうに渡されたそれは案の定着心地が良かった。
最初の贈り物を彼女にされてしまい、役に立たなかった年の功が恨めしくなった。

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「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス