音もなく、イケオジが消えてあの子が現れる。固まっていると、今度はあの子が消えてイケオジが現れた。住み慣れた我が家、種も仕掛けもございません、なはずなんだけどな?おかしいな?
何をいえばいいのかわからず言葉を探していると、
「世話になった。もう現れないから安心しろ」
靴を持ったイケオジが立ち上がる。
「えっ、ちょっ」
事情が飲み込めないまま置き去りにされかけて慌てて呼び止める。
「ええと……猫なの?人なの?」
「……本性は猫又だが」
「あー」
あの尻尾はホンモノだった。
「おとぎ話だと思ってた……」
「普通そうだろう」
油とか出してあげたほうがよかったのかな?そんなことを考えていると一度は立ち上がったイケオジがもう一度座った。思わず顔を見ると、
「まだ尋ねたいことがあると見える」
顔に出ていたらしい。
「……普通の猫まんまでごめん」
「食うものは猫と変わらん。雨に降られた日のあれは美味かった」
そうだ。あの日が始まりだった。
「……お利口だと思った」
「猫でも言葉はわかる。習性は耐え難いが」
すまなかった、と謝られる。習性。ふみふみされたことを思い出して横に突っ伏さざるを得なかった。