突っ伏したまま気になっていたことを聞いてみる。
「吸おうとすると全力で逃げるのも習性?」
「……いや」
やっぱり。両手で押し返すとか猫らしくないと思った。
「猫又の雄は乙女に口付けられるともう1つの姿に変わる」
「えっ……あっ、だから」
「いきなり俺が現れるのは間違いなく良いとは言えぬ」
そりゃあ今まで吸ってたのが顔は良いとは言えこの初老の男性だと、しかも猫を吸うそんな姿勢になってたりしたら泣ける。
「お心遣いありがとうございました……」
「叫ばれて追い出されるだけならまだしも、警察を呼ばれると困る故。こちらも利が大きい」
ちらりとその人……ひと?……の方を見る。猫の時と同じ、ぴしりと音がするような背筋の伸びた座り方、すこし古い言葉遣い。猫又になるだけあって随分昔から生きているのかもしれない。
「もうよいか」
「うーん」
「うん?」
しかし私の中ではあの子はあの子で、この人は親切な人なのだ。
「……気をつけるから猫の姿をもふらせて下さい、って言ったら怒りますか?」
中身がこのひとだったとしても、背中あたりなら頬ずりしても問題ないだろう、という結論に達した。毛並に顔を埋めたい。