猫と猫又のためのバーがあるという。日が暮れた頃から夜が明けるまでやっていて、店主こだわりの各産地の肉のペースト、腎臓が悪いもののための減塩メニュー、そして嘘か本当か分からないが尋常ではなく酔える「マタタビ」も取り揃えているらしい。
その名も「バー インモニャル」。
カウンターに立つマスターは老練かつなかなかの男前でファンも多いとか。人の姿だというので、雇われた理解のある人か猫又か、あるいは他の化生のようだ。
所在地を知っている猫は是非連絡を。
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「にゃーんて載せられちゃってますよ」
「知らん」
あとなが言えていないぞ、とマスターに言われてしまって尻尾が垂れる。だいぶん習得はしてきたけれど、みんな苦しむという「な」に苦戦していた。むずかしい。
「全部憶測でしか書かれていないがどこの新聞だ?」
「全国紙だよ」
はいっ、と一面を見せるとマスターが目を細くした。しばらくして、落ちたものだな、とため息をついて私の前にショットグラスを置く。立ち上る香りでもう駄目だった。
「尋常ではなく酔えるやつだ」
明け方の光の中、ようやくマスターが笑った、ような気がした。