あっ、猫やぎゅさんだ、と思った時には曲がり角の向こうに姿が消えていた。なんとなく行き先が気になって後を追ってみると、走っているわけでもなくてってっと歩く後ろ姿が見えた。私もそのままついていく。
緩いカーブの道を抜けて、いくつか角を曲がって最後に緩やかな長い上り坂を上がりきった少し平坦になったところで、猫やぎゅさんは待っていた。
「……ごめん」
なんか謝らないといけない気がしたから謝ると、気にするな、と言わんばかりに猫やぎゅさんが一声鳴いた。それからするんと近くの家の門扉の下をくぐって消えてしまう。……置いていかれた!まあ猫だしなあ、と思っていると、猫やぎゅさんが消えた家の玄関が明るくなった。古い引き戸を開けて出てきたのは、
「寄っていくか」
人の柳生さんだった。ということは。
「柳生さんのおうち……?」
「借家だがな」
猫又でも家って借りられるの?保証人は?
「どうする」
「あっ、えっ、お邪魔します……いいですか?」
柳生さんが立つと小さく見える門扉を開けてもらって、目の前の家を見る。一階建て、そんなに大きくないし結構古そうだけど、ぼろぼろではなくて大事に住んでいる感じがした。