「ん、わっ……!?」
立香も手を伸ばしたところまでは良かった。しかしふらふらと重心の定まらない身、階段の上でぐらりと揺れる。落ちると思いきや、すんでのところで手すりにつかまり尻餅をついた。身代わりになったハイヒールの片方が、少し下の踊り場まで飛んでいく。
「……びっくりした」
「馬鹿」
短く叱った但馬が、それでも踊り場までヒールを回収しに行った。
「但馬から手を出したくせに〜」
「……そうだな」
一理ある抗議に、それでもため息を一つついて階段に座り込んだままの妻の前にひざまづく。
「履かせてくれるの?」
「いいや」
立香の期待とは裏腹に、にべもない返事が飛んでくる。なーんだ、と頬を膨らませていたら、もう片方のヒールも脱がされた。
「え、ちょ」
慌てる間も無く、露わになった爪先を恭しく両手で包んだ但馬が足の甲に口付け、
「酔ったお前に歩かせようとした俺の誤りだった」
ひょいと片腕で立香の身体を抱え上げた。
「帰るぞ」
「……うん」
二人の目線はすっかり同じ高さになった。見つめ合い、ふと瞳を伏せて唇を重ねる。夜と同じ静けさで互いを慈しみあうキスだった。
#10年後 #柳ぐだ