なるほど、強い酒ばかりを好んで煽っているようなものかもしれない、と但馬は得心した。弱い酒にも風味の良いもの、すっきりとしたもの、色々とある。
今、立香が求めるような気持ち良いとはどういったものか。少し考えながら、手を戻す。煽るためではなく、慈しむために背を撫でる。悩ましげだった表情が、はっと少し目を大きくした後、柔らかく花がこぼれるような微笑みを見せた。その表情に、確かに足りなかったものがあったこと、そしてそれが今しがた埋められたことを思い知る。
「私も触ってもいい?」
「--ああ」
気の利いた言葉も見つからず、ただ同意しただけになってしまったが立香にはそれで十分だったらしい。目をすがめて、子猫でも触るような手つきで但馬の頬を撫でた。但馬も同じように立香の頬を撫でる。
「くすぐったいよ」
笑いながら逃げようとする立香の頬を、ご理解いただけたか、と柔く摘んでやるともう少ししっかり添えられるようになった。撫でられるたびゆっくりと心の内が凪いでいく。
「いい気分だ」
「うん」
いつの間にか口から出てしまっていた言葉すらも、柔らかく受け止められ。
「主は心の内に流るるものを掬うのがうまい」