なるほど、強い酒ばかりを好んで煽っているようなものかもしれない、と但馬は得心した。弱い酒にも風味の良いもの、すっきりとしたもの、色々とある。
今、立香が求めるような気持ち良いとはどういったものか。少し考えながら、手を戻す。煽るためではなく、慈しむために背を撫でる。悩ましげだった表情が、はっと少し目を大きくした後、柔らかく花がこぼれるような微笑みを見せた。その表情に、確かに足りなかったものがあったこと、そしてそれが今しがた埋められたことを思い知る。
「私も触ってもいい?」
「--ああ」
気の利いた言葉も見つからず、ただ同意しただけになってしまったが立香にはそれで十分だったらしい。目をすがめて、子猫でも触るような手つきで但馬の頬を撫でた。但馬も同じように立香の頬を撫でる。
「くすぐったいよ」
笑いながら逃げようとする立香の頬を、ご理解いただけたか、と柔く摘んでやるともう少ししっかり添えられるようになった。撫でられるたびゆっくりと心の内が凪いでいく。
「いい気分だ」
「うん」
いつの間にか口から出てしまっていた言葉すらも、柔らかく受け止められ。
「主は心の内に流るるものを掬うのがうまい」
但馬が思わずそう呟くと、そうかな、と立香は少しはにかんだように微笑んだ。
腕を、背を撫でる。唇で髪に口づけ、頬に頬を寄せる。ただ触れ合うことでひどく満たされていく。性急に暴き立てる必要もなく、ただ優しくしてやりたいという気持ちで満たされていた。
「たじま」
うっとりとした声に呼びかけられ、口元に耳を寄せる。
「すき」
短く甘い告白に、またひとつ満たされる。
「あいしてる」
頬が濡れる感覚に但馬が少し顔を離すと、涙を瞳にためた立香は少しばつの悪そうな顔をしていた。
「胸が一杯になりすぎた」
少し鼻をすすりながら不満げにそんなことを言う。
言葉ではいくらでも言い繕えることを但馬は知っている。だからあえて言うまいと思っていたが、今日ばかりは言葉にしなければならないと強く感じた。
立香の身体全てを抱きかかえるようにして、耳元に唇を寄せる。満ち満ちた気持ちはうまく声にはならず、ほぼ吐息だけの囁きでいとしい、と告げるた。言葉にすると、うまく定まった感触がした。
「立香」
戯れに名前を呼び、
「たじま」
呼び返される甘さを味わいながら、但馬は上掛けをしっかりと引き上げる。いい夢が見られそうだった。