「……まだ朝じゃないよぉ……」
寝床まではたどり着けなかった私の体を寝ぼけ眼のまま持ち上げると懐に収めた。暖かい、柔らかな体に包まれてこちらも眠たくなる。先ほどまでの寝相の悪さに若干身の危険を感じなくもなかったが、この居心地には勝てず大人しく丸くなった。
バスで隣町の女狐殿のところに挨拶に出かけ、帰ってきたまでは良かったがこの雨である。雨宿りをしようにもとうに店が立ち並ぶあたりを通り過ぎてしまい、民家の軒先に入るにも人の身体の大きさでは不審極まりなかったために猫の姿に戻ったのだが。まさかこうも暖かな寝床にたどり着けるとは思いもしなかった。
私を連れ帰った家主は若干酒臭かったものの、猫の生態をよく知っていたのも助かった。タオルで身体を拭う時も手際よく、食事時も撫で回されるでもなくゆっくり頂くことができた。どうも家猫だと思われている節はあるが、それは仕方あるまい。
尾を見ているだろうに何も言わず、おそらくよその猫にも同じようにしただろう娘の優しさに感謝しながら、襲ってきた睡魔に身をまかせる。一度は強くなっていた雨音も、大分静かになってきていた。