雨足が強くなった。立香は「嵐は秋の季語です」と学生時代に教わったことを思い出す。
出会って2回目の秋を迎えようとしていた。変わったことといえば、一夜を過ごすのが店からマスターの部屋になったこと、そのまま週末を過ごしたり週の中日にも会うようになったこと、やっと名前と連絡先を交換したことぐらいだろうか。年の差のせいで周囲からそのように見られることは稀だったが、ようやく普通の恋人めいてきていた。
どうやら天気が崩れそうだ、ということで、特にどこに行くでもなくマスターの部屋でごろごろと過ごしている。家主は立香の膝を枕にして本を読んでいたが、いつのまにか寝息を立てていた。
ミステリアスな人だな、とその寝顔を見ながら立香は改めて思う。丁寧だけど強引で、多分甘えたがり。そして、時々得体の知れない怖さを覗かせる。そのギャップにすっかりやられていることを自覚しているが止まれない自分に、ため息をつくしかない。と、同時にばりばりと大きな音を立てた雷に、
「……ひどい降りだな」
マスターが目を覚ます。
雷に打たれているのか、これから打たれるのか。立香には分からなかった。
#immoral
閑話2/柳生 Show more
稲妻は天使の剣、と誰かから聞いた。もう誰だか思い出せない。それほど昔のことなのだと思う。
強請られたわけでも攫ったわけでもなく、立香は自然に部屋に来るようになった。それでいて長々と居付くこともなく、週の始まりが見えてくると自宅へ帰っていく。息苦しさとは真逆のゆるやかな付かず離れずの関係は居心地よく、気づいたら誘うことが増えていたことを誰も責めることはできまい。
膝枕されたまま、嵐の窓辺をぼんやりと見つめたままの顔を見上げつつ様々の所業が知れることになったときのことを夢想する。謗られ罵られるだろうか、それとも何故だと泣かれるだろうか。きっとどちらでもないだろう、というのは、甘えだろうか。
ごろりと寝返りを打って腹に顔を埋めると、おそらく洗剤だろう良い香りがした。
「くすぐったいよ」
くすくすと笑う手が伸びてきて、明け方のように柔らかく撫でられる。
かの宗教の教えによると、いつか裁きの日が来るという。雷槌に打たれる時、この手を道連れに、とも思う。同時に、そのような末路はこの娘には似合わぬとも思う。このような迷いは初めてだった。
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