程よく腹がくちくなったところの炬燵というものは、なかなか暴力的であった。こちらの機動力を完全に下げてくる。
「お風呂入らないと」
と立香が呟くのは何度目だろうか。二人して、会話を交わすわけでもテレビを見るわけでもなく、ぼんやり足を突っ込んだまま出られなかった。ただただ足の温まる感覚に思わずあくびが出る。
「先に入りますか?」
いかんと思いながらもそれを嚙み殺しきれなかった私に立香が尋ねてきた。
「そうだな」
ちらりと時計を見ると22時を過ぎていた。確かにいい頃合いかもしれない。
「一緒にどうだ」
何の気なしに誘うと、
「昨日あれだけしたのに?」
と甘く咎められ、思わず苦笑する。
「生憎そう毎日求めてやれるような年でもなくてな。単純に一人にしておくと上がった頃にはすっかり寝ていそうな気がしただけだ」
「……否定できない」
もぞもぞと炬燵を抜け出した立香と、着替えを手に取り浴室に向かう。さっさとお互い自分で体を洗い流して湯船に浸かると、先ほどまでよりもほんの少しだけ目が冴えた。私の体にもたれながらふう、と息を吐いた立香の身体の跡はまだ生々しく赤いままで、ほんの少し罪悪感を感じる。
今更、というよりも閨の中でのことを、それも相手も悦んでいたことを謝るのは野暮の極みである。そのまま黙って抱き寄せると、くてんと立香の頭の重みが肩に乗った。
「寝るなよ」
「うん」
返事をしたそばから欠伸をしている。体がそこそこ温まったところで引っ張り上げ、髪を乾かしてやりパジャマも着せて布団に放り込んだ。
「至れり尽くせりありがとー」
またふぁと欠伸をした、その横に滑り込む。
「お代は手でいいぞ」
早くも少しうとうとしている立香の手を探して握る。私よりふたまわりほど小さい手は風呂に入ったにしてもあたたかく、すぐに眠ってしまうのは間違いなさそうだ。
「抱き枕じゃなくていーのかなー?」
「身体が痛くなるだろう」
明日もお互い仕事だ。無理はしないに越したことはない。
ふふ、と立香が笑った。
「どうした」
「……大事にしてくれてありがと」
繋いだ手が口元に導かれ、柔らかな唇が触れる。
「でもハグはしてほしい」
そう嘯いてごろりと飛び込んできた身体を受け止め、望まれるまま背をひと撫でするとまたすぐに戻っていった。
「おやすみ」
柔らかな響きは静かに私を包み、それは眠りに落ちるまで変わらなかった。