「たったたららららら♪」
古い映画の雨の歌を口ずさみながら、夜の道をぶらぶら歩く。傘もさしてるし雨も降ってるけれど、念願の月間売上トップのお祝いの日だもの。悪い日のはずがなくて、ほろ酔いのまま通い慣れた道を歩く。駅前の商店街を抜けて、大学の前を通ってアパートが立ち並ぶ細道を抜ける。
ぶえっくしゅ、と盛大なくしゃみが聞こえた。
「……んん?」
とても近くなんだけど人気はなくてきょろきょろしていると、暗闇の中キラリと光る目と目があった。ねこだ!大きめ、コワモテ、きちんと座ってアパートの階段下で雨宿りしてる。
じいっと見つめると動かなくなる習性を利用してずずずっと近寄ると、一瞬びくりとしたものの逃げないでいてくれた。ちょっと濡れてはいるものの毛並みもいいし、どこかおうちからうっかり外に出ちゃった子かな?
「家出かーい?」
うりうり、とあごの下を撫でると、撫でさせてはくれるものの反応がない。うーん、野武士。
「こんな雨の中そんなくしゃみしてたら死んじゃうよ?」
今夜は雨足が強くなる予報だけれど、この子はもちろんそんなことは知らないと思う。心配が過ぎる。
「……うちくる?」
ツナ缶とご飯、それにかつお節も混ぜて少しふやかしたご飯をあげるとゆっくり食べ始めた。くしゃみもあれからしていないから、今夜一晩泊めてあげれば多分大丈夫だな。よしよし。
厚手のタオルを湯たんぽに巻いて布団の足元に入れたから寝床はOK。いつのまにか、ご飯をあげた器も空っぽになっていた。
「お腹いっぱいになった?」
食後の洗顔をしていた子に声をかけると、てててと近づきぐいぐい頭を押し付けてくる。
「よかったよかった」
前足の付け根から抱えて持ち上げるとやっぱりけっこうおっきい。ふくよか系というわけではなくて、単純に骨格がしっかりしていて大きい感じ。そして、身体つきからもそんな気はしてたけど、やっぱりついてた。
「男の子にしてはおだやかだねえ、キミ。けっこうお年寄りなのかい?」
抱っこも全然嫌がらないし、やっぱりどこかのおうちからうっかり外に出ちゃったのかな。
「早く帰んないと飼い主さん心配してるだろうけど、戻るのは明日にしなね」
そう話しかけた私をよそに、くぁ、と大きなあくびをしたのがいかにも猫らしくて頬が緩む。
「寝よっか」
抱えた胸元に擦り寄るその子をおろして、私もベッドに入った。