女の香りに下腹が滾る。勃ち上がりきらないうちに藤丸を離さねば、と思うがうまくいかない。子供がむずがるように、距離をとるとううんと唸って詰めてくる。
「藤丸、起きろ」
揺さぶっても、
「もーちょっとあっためてください……」
などと呑気なものだ。貞操の危機とわかっているのか、それとも貞操という概念がないのか。
「油断がすぎるぞ」
いささか余裕もなくなってきたので無理やり引き剥がすと、藤丸は紗を掛けたようなぼんやりとした顔でこちらを見つめてくる。それは女が登りつめた後の顔に近いもので、一度そう連想してしまうともうどうしようもなかった。潤む瞳を見つめて抱き寄せ、身体を返す。藤丸は目を見開いているが、お構いなしに硬さを持ち始めたものを押し付けた。
「けい、ぶ」
後ずさろうとしたところで手首を捉える。
「何だ」
嫌だと言われる前にその気にさせなければならない。頬と髪を手のひらで包み込むようになでてやると、気持ちよさそうに目をすがめた。我に返さないようそのまま続けてうっとりしてきたタイミングで、
「藤丸」
甘く優しく名を呼んで指を絡めてやる。藤丸は、困ったが嫌ではない、という顔になった。
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油断した。夜安全だったからといって朝もそうだとは限らないと、こうなってから知った。警部の大きな身体は押さえつけなくても私の動きを阻むのに十分だ。圧倒的に不利なことに加えて、
「藤丸」
いつもの静けさはそのままにうんと甘さを加えた声音で呼んでくる。
他の、例えばいい男ぶったような人がやったら爆笑してしまったかもしれない。でも今の私の背には確かに色欲ともいえるものが駆け上ったのだった。
まずい、と思う間にも警部は手指を休ませることなく私を苛んでくる。頬を撫で髪を梳き、黙って私を見つめている。ほとんど普段と変わらない顔をしているのに、何を請われているかは十分に分かってしまった。
困った。元々そんなつもりもなくハラスメントを受けているとも言えるのに、断固拒否する気持ちが湧いてこない。一晩温めてもらって情が移ってしまったんだろうか。あるいは、それだけ警部のやり口が巧妙ということなんだろうか。そもそも昨日の夜一緒に寝ないんですかなんて言ってしまったのは私だし、今も無理に押さえつけられるわけでもない。
いやでも断らなければ、と思った瞬間、ほんの少し甘えるように鼻先が触れてぐっときてしまった。