――抱かれたい。
笑い声が溢れるテレビを見ながら、私は体の熱を持て余していた。
私が年上の恋人と同棲してから半年。何もない穏やかな金曜日の夜もそれなりに多くなってきた、ような気がする。勿論、私は体だけではなく彼の心も何もかも全部好きだからそう言う金曜日も大歓迎。
だけど、彼は62で私は18なのである。
そう、花の18。体力も元気も性欲も有り余る青春真っ盛りの体は、1週間の性欲を律儀に溜め込んでいた。その結果がこれである。
言うまでもなく、彼の年齢と体のことはちゃんと理解している。先週は毎日体を重ねていたし、毎日2回戦までしてしまった。最後の日曜日の時には、来週はお前の期待には応えられないとちゃんと宣言された。だからこそ、この1週間何もしなかったし、彼からもすることはなかった。
だけど、今、私は彼の魔羅が欲しいと思っている。
いや、魔羅じゃなくても良い。彼の指でも、彼の舌でも良い。何でもいいから、彼の愛撫を受けたい。彼の熱い精液を子宮は欲し、体は彼の手で快楽の海に溺れて欲しいと訴え出す。
でも、後ろを見れば、そこには色気も何もなく普通にソファで読書している彼がいた。
体は、まだ熱い。

彼はソファに座り、私はソファではなく彼の足元に座るように床で胡座を掻いている。女の子らしかぬ座り方だけど、結構楽だったりするのだからやめられない。
じっと見つめても、眼鏡越しの彼の金色の瞳はずっと上下に動いている。今週は今まで積まれたままだった本を全て読むのだと言っていたから、かなり読書に集中している。その証拠にいくら熱っぽい視線で見ても、さっきから何の反応も無い。
つまり、私のムラムラに気づいていない。
いつもは私の気持ちを私より汲んでくれる彼にしては、珍しい事態だ。だけど、なぜに今。今こそ、彼にこのムラムラな気持ちを汲んでほしいというのに。
そうこう悶々としていると、ぺらり、と彼が本の頁を捲った。武骨なのに繊細な親指と人差し指が紙を摘み、動いていく。いつも、あの指で、わたしの色んなところを、触って、誑かしているあの指が、やけに遠くに見えた。
『こう摘ままれるのが好きだろ』
『お前の胸はずっと揉んでいたくなるな……』
『そう焦るな。まずは解してからだ』
『分かるか? 今、お前の中に俺の指が三本も入ってるぞ』
ざらついた低い声が脳裏を過る。
――もう、無理。
私の指が、股へと伸びた。

「立香」
今、私の名前を呼ばれた?
前を向きかけていた顔をまた後ろに戻せば、彼の目は本から動いていない。……幻聴だろうか。
でも流石に、彼の目の前でやるのはかなり危険だ。ここはトイレで手短に済ませよう。多分このムラムラも一時的なものだし、ここを乗り越えればもう1週間我慢できるはず。
「……ん?」
立ち上がろうとしても、頭が何かに強い力で押さえられて立てない。何とか踏ん張って立とうとしても、頭に乗せられた何かは更に重くなるばかり。まるで大きな手に押さえ込まれてるみたいにも感じられるけど、上が見えないから何なのかは分からない。
諦めて再び胡座をかくと、上から大きなため息が聞こえた。
「立香」
やっぱり、幻聴じゃない。
振り返ると、手元の本から顔を上げた彼と目線が合った。だが、その瞳には怒気が混じっている。思わず私の足が勝手に動いて正座になるのも仕方ない。
「……あの」
彼は何も答えずに、足元で縮こまっている私をじっと見つめている。多分、彼は私の謝罪を待っていない。
「全部私が悪いんだけど、その……今、ムラムラしてます」
彼の顔を見る勇気が無い私は、じっと自分の太股を見つめていた。

上からの反応はない。きっと、怒っているだろう。今週はできないと言われてたのに、目の前で自慰をし始めようとするのだから。この前みたいに一人っきりの時にすれば良かったのに、なんで今し始めようと思ってしまったのか。
彼と出会うまでこんなことは何も知らなかったし、してこなかった。でも、彼から一、いやゼロから教え込まれた体は正直で。
気がつけば、私は彼の色に染まりきっていた。
「だ、大丈夫、宗矩さんのことはちゃんと理解してるし、私が悪いから! 淫乱なのは、ほほほら、も、元々だし! こう言うのは前にもあったし、その時にも一人で何とかできたし、」
「どのぐらい前のことだ」
「えええと、3ヶ月前です」
言ってから、とんでもない前科を自ら言ってしまったことに気がついた。
3ヶ月前も、同じことがあった。その時は、重役である彼は仕事の長期出張で1週間いなかったから心置きなくできたけど。でも、今は違う。
はぁ、と重いため息が聞こえてくる。
「何故、聞かずに無理だと諦める」
「……え?」
見上げても、そこには相変わらず読書をしている彼がいた。
「……宗矩さん」
「何だ」
「えっち、しよ?」

コロク
Follow

断るつもりだった。
何せ、此方が誘うときは決まりきって断るのだ。たまにはお預けを食らい続ける此方の気持ちも味わうと良い、そう考えていた。
今週はできないし、したとしても応えられない、と告げた時の彼女の反応は淡白なものであった。しかし、二日目から此方を頻繁に見るようになり、三日目には時折体をムズムズと動かせることが多くなった。四日目には何かを言おうとしては何でもない、と言う。そして、この五日目である。
いい気味だ、と最初は思っていたが今は違う。今も読むつもりで持っている本の頁は捲っていれど、内容は何も頭に入ってこない。
求めているのは、俺も同じだった。
二日目で彼女の匂いを嗅ぐだけで抱きたいと思い、三日目には彼女が食べる時の一挙一動に心を乱され、四日目には職場でどうやって彼女を悦ばせようか既に考えていた。一日しか我慢ができないとは、我ながら節操もない。子供はできないと自分で言っておきながら、もしかしたら有りうるかもしれない、とも思えてしまう。
「えっち、しよ?」
見上げてくる彼女の瞳は潤み、頬は上気して赤くなっている。
「俺もそう思っていたところだ」
早く、お前を喰らいたい。

Sign in to participate in the conversation
ichinyo.site/但馬守に斬られたい人たち

「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス