ふるり、と。快楽の海から上がって最後と雫を落とすように立香が震えた。先程までともに沈んでいた但馬は既に落ち着いた顔をして横でその背を抱いている。立香が深く息を吐くと、二人の間の気だるさが増した。
体を重ねるようになって随分と経つ。慣れた分どうすれば互いに良い反応を返すか、どうすれば昂ぶるのか、なんとなく分かってきていた。深く打ち付けあった身体は芯まで蕩け、自分というものが何処かに行ってしまうこと、それでいてそのままただひたすら快楽に溺れることができると今では知っている。
十分に満たされ満たしたことに但馬は満足していたが、立香はどことなくむずがるように体を寄せてくる。
「不足であられたか」
もう一度できるだろうか、と危ぶみつつ背中から尻へと手を這わせると、立香はいやいやするように首を振った。
「但馬は、足りない?」
「いや」
質問に質問で返されたが足りていることは確かである。
「私も」
そう笑った顔は、しかし、満面の笑みではなく少し翳りがあった。そのまま、なんていうか、と言葉を探した立香は、
「クラクラするぐらい気持ちいいのは足りたんだけど、ね」
と呟いて、さらに悩見み続けている。
但馬が思わずそう呟くと、そうかな、と立香は少しはにかんだように微笑んだ。
腕を、背を撫でる。唇で髪に口づけ、頬に頬を寄せる。ただ触れ合うことでひどく満たされていく。性急に暴き立てる必要もなく、ただ優しくしてやりたいという気持ちで満たされていた。
「たじま」
うっとりとした声に呼びかけられ、口元に耳を寄せる。
「すき」
短く甘い告白に、またひとつ満たされる。
「あいしてる」
頬が濡れる感覚に但馬が少し顔を離すと、涙を瞳にためた立香は少しばつの悪そうな顔をしていた。
「胸が一杯になりすぎた」
少し鼻をすすりながら不満げにそんなことを言う。
言葉ではいくらでも言い繕えることを但馬は知っている。だからあえて言うまいと思っていたが、今日ばかりは言葉にしなければならないと強く感じた。
立香の身体全てを抱きかかえるようにして、耳元に唇を寄せる。満ち満ちた気持ちはうまく声にはならず、ほぼ吐息だけの囁きでいとしい、と告げるた。言葉にすると、うまく定まった感触がした。
「立香」
戯れに名前を呼び、
「たじま」
呼び返される甘さを味わいながら、但馬は上掛けをしっかりと引き上げる。いい夢が見られそうだった。