「……なんかやだ」
何故かはわからないけれど、もやもやする。
「やぎゅが誰とするかなんてやぎゅの自由なんだけど……」
分かってはいるからリツカはそう付け加えた。それでも、けど、がついてしまう。じいっと見つめてくるヤギュウの視線が居たたまれなくて、リツカは丸めた体に頭を押し付けた。
「リツカ」
「……ごめん」
「怒ってなどいない」
そう言うヤギュウの声は確かに甘く柔らかくて、もう一度頭を上げる。金色の瞳がぴたりとリツカの目を見定めると、
「もうお前以外と子を成すつもりはない」
そう告げて、またべろりと鼻先をひと舐めしてきた。
「……やぎゅとじゃ子どもできないよ」
「ああ。だからそういうこともしないということだ」
つくろわれる額が、頬がくすぐったい。身体が熱い。うんと走って遊んだあとみたいなのに、もっと飛び跳ねたいような、そんな気持ち。
ふと、いつかムサシに言われた『借りるね』という言葉を思い出す。あのとき思ったことが、きっと間違いないと思える。
「やぎゅはわたしのもの?」
「ああ、そうだ」
うれしい。うれしくてうれしくて、それで身体が一杯になって。気づいたら、リツカは半獣姿になっていた。
発情期でもないのに、くらくらする。それはヤギュウも同じだった。ただ、年嵩がある分、おそらくヒトの生態に引きずられているのだろうことはわかる。わかっていても、その反応を抑えることは難しかったが。
唇を離し、リツカの脚の付け根に兆したそれを押し付ける。
「やぎゅも……?」
小さく驚いたように問いかける声にすらぞくぞくした。交わり、融けあい、子を成すためではなく単に満たし満たされたかった。
(……なるほど、確かに重い)
自覚はあったがもうどうしようもない。番いたいと思ったメスの返事を待つ。
しばしの沈黙が暗い部屋の中に漂った。しばらくして、リツカが大きく口を開いて、かぷり、とヤギュウの首を甘噛みする。返事を受け取ったヤギュウは、思うままに組み敷いた身体を愛でることにした。
「あ……?」
なろうと思ってなったわけでもないのに、という驚きと同時に身体が疼く。この疼きをリツカは知っていた。発情期のそれだった。けれど、あのときほど訳が分からなくならないし、誰でもいいという気持ちもなかった。そもそも今は発情期でもなんでもなくて、訳が分からない。
ただ、ヤギュウとしたかった。ぎゅうぎゅうに身体を押し付けあって、肌を寄せて、毛並みを繕いあいながらうんと気持ちよくなりたかった。
そのことをどこから説明したものか半ば呆然としながら考えるリツカをよそに、ヤギュウも姿を変える。
「リツカ」
優しく呼びかければびくりと小さな身体が跳ねた。
「やぎゅ……」
見上げてくる顔には、どうしたのか、どうすればいいのかわからない、と書いてあって、おもわず笑みがこぼれる。
「わたしは、お前のものだ」
もう一度、一つずつ言葉を噛みしめるように伝える。
「……うん」
向かい合った身体を組み敷いて、もう一度、
「お前のものだ」
耳元で囁くと、ぴくんとリツカの耳が跳ねた。本当に、心から喜んでそうなったのだと、尾で示してやる。
「やぎゅ、」
呼びかけるその声を目線で遮って、ヒトがするように唇を塞いだ。