「おじいさんはおじいさんでちが、あちきの知っているおじいさんはもっと優しくて穏やかな人でちた」
「何?あの方がお前様の想いびとなのでちか?」
「……おじいさんでちからね。いつまでもいてくれるとは限りまちぇん」
「今日の仕事はもうおしまいでち。当分夕方のお食事配膳終わったら上がりでいいでちよ。朝もお客様方が帰られたあとのお部屋の掃除からくるのでち。またお客様がお帰りになってからしっかり働くのでち」

「というわけでして」
「しかしそれでは」
「そう。感謝の気持ちが集まらないんだよね〜」
酒豪会から一人部屋に帰った但馬と女将に勧められるままとりあえず足を運んだ立香は広縁で語らっていた。野山の暗闇の中、閻魔亭へといたる橋の他はただぽっかりと月が浮かぶばかりであった。
「休むのも仕事、って女将に感謝するっていうのもなんか違うしね」
手を伸ばした但馬に先んじて立香が銚子を手に取ると猪口を満たした。
「かたじけない」
「いいお女中になったでしょ?」
にこりと笑った立香に、
「……このような感謝のされ方をするとは女将も思案の外であろうな」
ぼそりと呟いた但馬が杯をあおった。

酔いに任せて但馬がその体を抱くと、立香はお酒くさい、と笑いながら体を預けた。ちょん、と首を反らせて口付けると緩く男のものが勃ち上がる。快楽自体はさほどでもなくとも、その感触その光景に反応してしまう。それを自らの腿で感じ取った立香の頬が、酒を飲んでもいないのに色づいた。しかしそこから去るわけでもなく、そのまま但馬の首筋から着物の合わせに唇を這わせる。男の乳首を探り当て、舐め転がしながらそっと熱い逸物に手を伸ばせばびくりとそれが震え硬さを増すと同時に、但馬が息を詰めた。
愛しい男との予期せぬ逢瀬、肌の触れ合いを期待しなかったわけではない。しかしそれだけになるのも、淫らにすぎそうで怖い。もう少し何か口実を、と唇を離した立香が何か言いたげに口を開きかけて、また一人赤くなる。その機微は明らかにされぬなりに但馬の欲を掻き立て、
「なんで……」
反応したそこに立香が思わず呟いた。なんともものを知らない言いように、
「そう思うておるのはお主だけよ」
但馬は微笑みながら、ものの道理というものを教えてやらねばな、と立香の着物の帯を解いていった。

落穂ナム
Follow

背後注意 Show more

Sign in to participate in the conversation
ichinyo.site/但馬守に斬られたい人たち

「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス