首輪を受け取った晩のこと。
「ダヴィンチちゃんに、ヤギュウは重いでしょうって言われた」
「……ほう」
寝床に潜り込んでいつものように丸まった側に落ち着いたリツカから知らされたヤギュウは内心苦笑する。今までそんな風に思っていたなどまったくもって出さなかったのに、流石の慧眼だと思った。だが、
「やぎゅ、ダヴィンチちゃんともシた?」
この質問は予想外だった。
「なに?」
間抜けな問いかえしの言葉しか出てこない。
「ダヴィンチちゃん、やぎゅの身体がおもたいっておもったってことでしょ?」
そう続けたリツカの尻尾はしゅんと床に落ちたままだ。
(これは重たい違いだな)
察しつつもそのリツカの様子が可哀想やら愛しいやらで心中忙しない。
「今の所ダヴィンチ含めてオスから求められたことはないしネコでもヒトでも交わったことはない」
まずは身の潔白を主張する。
「……ダヴィンチちゃんオスなの!?」
一旦は丸まったリツカがガバリと起き上がって顔を覗き込んでくる。その可愛さにべろりと頬を舐めながら、
「そうだ。メスの姿の方が美しい!か何かでああなっているが」
次いで尋ねた。
「どうしてそんなことを気にするんだ?」
「あ……?」
なろうと思ってなったわけでもないのに、という驚きと同時に身体が疼く。この疼きをリツカは知っていた。発情期のそれだった。けれど、あのときほど訳が分からなくならないし、誰でもいいという気持ちもなかった。そもそも今は発情期でもなんでもなくて、訳が分からない。
ただ、ヤギュウとしたかった。ぎゅうぎゅうに身体を押し付けあって、肌を寄せて、毛並みを繕いあいながらうんと気持ちよくなりたかった。
そのことをどこから説明したものか半ば呆然としながら考えるリツカをよそに、ヤギュウも姿を変える。
「リツカ」
優しく呼びかければびくりと小さな身体が跳ねた。
「やぎゅ……」
見上げてくる顔には、どうしたのか、どうすればいいのかわからない、と書いてあって、おもわず笑みがこぼれる。
「わたしは、お前のものだ」
もう一度、一つずつ言葉を噛みしめるように伝える。
「……うん」
向かい合った身体を組み敷いて、もう一度、
「お前のものだ」
耳元で囁くと、ぴくんとリツカの耳が跳ねた。本当に、心から喜んでそうなったのだと、尾で示してやる。
「やぎゅ、」
呼びかけるその声を目線で遮って、ヒトがするように唇を塞いだ。
発情期でもないのに、くらくらする。それはヤギュウも同じだった。ただ、年嵩がある分、おそらくヒトの生態に引きずられているのだろうことはわかる。わかっていても、その反応を抑えることは難しかったが。
唇を離し、リツカの脚の付け根に兆したそれを押し付ける。
「やぎゅも……?」
小さく驚いたように問いかける声にすらぞくぞくした。交わり、融けあい、子を成すためではなく単に満たし満たされたかった。
(……なるほど、確かに重い)
自覚はあったがもうどうしようもない。番いたいと思ったメスの返事を待つ。
しばしの沈黙が暗い部屋の中に漂った。しばらくして、リツカが大きく口を開いて、かぷり、とヤギュウの首を甘噛みする。返事を受け取ったヤギュウは、思うままに組み敷いた身体を愛でることにした。