事あるごとに新茶が「リツカちゃんいてくれたら書類手伝ってくれるのになー!」とぼやくのを黙って聞いている班長。みたいな。
あっ、いなくなるのはぐだちゃんです…
ご指名&お持ち帰りです(業務上)!
で、新茶の書類の世話を焼いたり思わせぶりな探偵からの謎かけに頭を悩ませたりするんだけど半年ほどで失踪するというお話を考えておりますですよ…
にじにじと歩み寄って、一年後警部が特捜班に配置換えになるときに藤丸さんも引っ張っていく予定
ちょうど信号に引っかかった。立ち止まると寒さが骨身に染みて、マフラーを少しきつめに巻き直す。
「そ、の、節は大変、失礼、しました」
きちんと思い至ったようで、ちらりと見ると藤丸は俯き加減になっている。あの翌朝の傍若無人さと、このギャップがなんとも面白かった。
「緊急避難だ、仕方ない」
あれから何度か現場に出たが、そう参った様子ではなかったあたり、うまく乗り越えられたのだろう。毎度となると流石にこちらも欲求不満になりかねなかったから、助かった。
藤丸が不意に顔を上げた。
「いま」
やけに勢い込んでいる。今?
「今その話をされたのはどういうことでしょうか」
ほんの少し、警戒するように距離がとられた。
「好きなものの話だろう?」
こう寒いと温もりが恋しい、とまで言ってしまうとハラスメントになりかねないので自重した。しばらくじっとりと見上げられたが、
「私もこないだ、大型犬を招いたら一緒に寝てくれて。とってもあったかかったです」
意趣返しのつもりなのか、藤丸はそんなことを言って青になった信号を渡っていく。
「それは何より」
寒風吹く夜、ニヤリと笑うような月が冴え冴えと藤丸の上に輝いていた。
本当に同じなんだろうか。見上げた警部の顔はいつもと同じで、よく分からない。分からないけれど、なんとなく本当のことのような気がした。
「帰るぞ。こんなところでぼんやりしていると風邪を引く」
足を止めたのは自分のくせに、すたすたと警部が歩き出す。私が小走りで追いつけるぐらいのスピードで。
捕らえたいわけではない。殺したいわけではない。どうしたいかなんて決まっているけれど、私たちは大人だ。誰かに何かを強制することなんてできないし、できうる限り自分の思いのままに生きる権利がある。だったら、仕方がない。限りなくそれを尊重しながら、嫌なものをうまくやり過ごす工夫を続けるしかない。いつか、お互い好きなものの話をできるようになる日まで。
そんなことを思いながら追いついて、ふと気になって聞いてみた。
「警部の好きなものってなんですか?」
なんでそんなことを、とも言わず、
「食うこと、寝ること、ぼうっとすること」
さらりと答えが返ってきた。もうちょっと、取っ掛かりになるような答えが欲しかった。
「あとは、猫」
「えっ」
意外だ。
「一緒に寝ないかと誘ってくるから一度だけ布団に入れたが、あれは暖かかった」
書いてて辻褄合わせるようになりましたが、多分これナムデア特捜班設立前夜の話になる気がします
箱開け最優先で周回してます。ジャンタリリィとステゴロマルタさん、あとダレイオスくんで弓ボスのところをぐるぐる、大体7ターン。今日開くクエストが回りやすいといいなあ…。
数刻前に口を封じるか考えておきながら危険な目に合わせたくないとは我ながらおかしな話だったが、本心である以上仕方なかった。言われた藤丸も固まっている。挙句出てきた言葉が、
「……警部、酔ってます?」
なのだから、赤い顔をしながらなかなかに頭が回っている。
「かもしれんな」
肯定しておいて、締めとデザートを頼んだ。
自分が誘ったのだからと財布を出そうとする藤丸を遮って、会計を済ませ店を出る。昔ながらの街並みの夜に、遠く火の用心の拍子木が響いていた。ぶらぶらと人気のない坂道を下る。横を歩く藤丸が、
「殺さないんですか」
と、あたりに響かない声の大きさで単刀直入に尋ねてきた。白い息の向こう側、見上げられている気配に立ち止まる。やはり、いつものまっすぐな目でこちらを見ていた。
「……君こそ、縄にかけないのか」
視線をぶつけたまま尋ね返す。酔いがほんの少し冷まされるほどの間の後、
「捕まえたいわけじゃないんです」
最高の答えで、とんだ告白だと思った。ああも職務に熱心な藤丸が。正義と信念を超えた別枠だと言われたようなものだったが、本人は至って真面目で気づいている様子はない。
「……俺も同じだ」
殴れるステゴロ聖女、マルタさんをよろしくお願いいたします
それきり、警部は黙って何も言わなかった。まあ予想通りではあるけれど、欲しい答えを何ももらえていない。警部ほどの人が、どうして。いつから。なぜ。誰の差し金で。頭の中を疑問が埋め尽くす。酔いが回ってきて、次に問いかけることを決めていたはずなのに忘れてしまった。警部はと言うと、酔った様子もなく熱燗とへしこを頼んでいる。
すっかり手酌で酒を注ぐその手つきを見ていると、
「藤丸」
「……はい?」
不意に話しかけられた。
「今日は外回りだったか」
「あ、はい。例の件の取引に」
警部が今日動くとは思っていなかったけど、結果的には間に合った。それが何より嬉しい。しかし。
「動くときは?」
ぴしりと声が飛んできて、ちょっと目をそらさざるを得ない。
「……ツーマンセル」
「次からは俺も呼べ。君の邪魔はしない」
付け加えられた言葉に思わず警部の顔を見る。相変わらずの仏頂面だった。
「それが君の正義なんだろう」
見つめ合い重ねられた言葉に、警部は警部でなにかしらの正義に基づいているのだと知る。
「私を泳がせるんですか」
問いかけると、警部はしばし瞑目してから、
「危険な目に合わせたくない」
そう宣った。
あーーーー煙草よい!!!どこかで吸ってもらおう
いつものようにぽんぽん言葉が飛んでくるかと思ったが、予想に反して藤丸は黙々とつまみを摘んだ。たまに口を開いたかと思えば、
「じゃがいものおでんって美味しいんですねえ」
だとか、
「生牡蠣もいいですか」
だとか、ひたすら食い気に偏っている。好きに頼めばいい、そう告げると、あっという間に第一陣の注文を平らげて牡蠣と揚げ出し豆腐に銀杏の塩炒り、追加の熱燗を頼んでいた。
「よく食うな」
思わず言葉にすると、
「最後の晩餐になるかもしれませんので」
酒に酔った赤い頬を晒しながら、それでも真顔でそう言った。なるほど、ある程度の覚悟はしてきたらしい。
「応援を頼んで捕らえればいいだろう」
カマをかけてみたが、
「そんな伝手がないことはご存知かと」
と酒をあおる様は嘘のようには思えなかった。
今、真実は己と藤丸の間にしかない。この小上がりの膳の上、差し向かった空間にしか。
「なんでなのか、聞いてもいいですか」
ぽつりと藤丸が尋ねてきた。見つめる瞳を見つめ返して答えを探したが、
「……一言では言い表せん」
「面倒?守秘義務?黙秘?」
「さて」
全てを話してもよかったが、うまく説明できる気がしなかった。
お店は警部に任せた。何だかんだで、この人は美味しいもの、良いものをよく知っている。連れていかれた先に誰かいるのかもしれないと思わなくもなかったけれど、ここまで踏み込んだ以上帰れなくなることも覚悟の上だった。
倉庫街の最寄駅から二つほど電車に乗った、一見すると少し大きな古い家が立ち並ぶ住宅街のはずれ。一言も話さないまま連れられたのは、仕出しの看板を掲げた小さな居酒屋だった。カウンターが4席と、四人も座ればぎゅうぎゅうになりそうな小上がり。何か道具を持ったおばさま2人がカウンターにいたけれど、私たちが入ってすぐに席を立った。
「花街の名残の店だ」
有線の演歌に紛れる声の大きさで、警部が言った。
「長年のそういう席への仕出しで続けられるぐらいに美味い。今みたいなお座敷前の姐さんたちが来た後はほとんど客も来ない」
そんな説明を受けるうちに、頼んでいた熱燗と出汁巻とおでんがきた。店の人も忙しいのか心得ているのか、出すものを出してさっと引きあげてしまう。
お互いお猪口に注ぎあって、杯を掲げる。
「有能な部下に」
「……引き立ててくださる警部に」
口にした日本酒は甘く強く喉を焼いた。
黒警部×新人ぐだちの妄想が止まらねえ
つまらない仕事だった。一方を過去のネタを餌にして呼び出しナイフで刺す。そのあともう一方を同じように呼び出し意識を失わせてからナイフを握らせる。指紋と刺入方向だけ気にすればよかった。
しかし、呼び出した現場にいたのは。
「容疑者は司法取引に応じ自首しました」
藤丸だった。倉庫街の暗がり、高架を挟んだ向こう側を走る車のライトが彼女の顔を一瞬照らす。その表情からは何も読み取れない。
「……よく口説いたな」
「命の危険がある旨伝えました。口を割った場合の処遇の具体例も」
「そうか」
この場所もおそらく取引の過程で聞き出したのだろう。現場慣れこそしていないが、群を抜いたコミュニケーション能力が本領を発揮したか。
「警部」
藤丸の瞳が、その気質を表すかのようにまっすぐ見据えてくる。
「なんだ」
周りに他の者の気配はない。自首した奴にも俺の正体が伝わっているはずもない。藤丸の口さえ封じてしまえば、真相は闇の中だった。
だが、まだ、そういう気にならない。何を言ってくるか、好奇心に負けた。
再びヘッドライトに顔を照らされ、眩しげに目を細めた藤丸は、
「もう上がりなら飲みに行きませんか」
そう言った。
トリプルマルタさんという無敵の響き、やばい
柳ぐだ(♀)/ichinyo.siteインスタンス管理者